アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
フランス第二の都市であるリヨンから40キロメートルくらい離れた所に、サンテティエンヌというリヨンの衛星都市のような、人口30万人ほどの都市があります。その中心にある停車場周辺の、再開発のためのマスタープラン「サンテティエンヌ市シャトークルー地区再開発計画」の作成を、ここの市長に依頼されました。今はまだこのあたりはほとんど何もない所で、ただの平地の部分もありますが、これからこの場所に、市の非常に重要な施設をつくろうとしています。今、この計画の一期をやっていて、主にオフィスとリテール(小売店)、それからハウジングも含めたアーバン・デザインをやっています。現在、ワーキング・ドローイングがほぼ終わりかけている状況です。
こうして見ていると、自分が昔大学で教わったアーバン・デザインを思い出します。ヨーロッパには「フィガー・エンド・グラウンド」という都市づくりの原則になっているルールがあります。これは街区を尊重したかたちで建物の壁面線を規定し、全体を構成していくというものです。今回はできるだけこの「フィガー・エンド・グラウンド」に基づくかたちで、真ん中に新しくモールをつくり、それを囲むかたちでオフィスと住居をつくっていく、という構成になっています。
北側は操車場や線路になっていて、線路のすぐ脇には高いオフィスをつくります。さらにその南側は低いオフィス、あるいは人が住める低層棟にして、その間に長いモールをつくっています。リヨンにはレンゾ・ピアノが「リヨン国際都市」の中でつくった有名なモールがありますが、それは格式の高いフォーマルなものです。それに対してこちらはもう少しイン・マフォーマルな、ヒューマン・スケールを維持した小さなモールを、ふたつの棟の間につくっています。
今はモールの東端に形成する、アパートを中心にした街区の実施設計をやっています。ここでもグリーンがひとつのテーマになっていて、今設計しているものもグリーンを尊重した建物です。ここではグリーンの壁を150メートルくらいの長さにわたってつくっています。建物の後方は広い操車場になっているので後ろを高くして、前の方は三階建てで一階部分をリテールに開放し、奥に行くと小さなモールがある、という計画です。
今回この計画をやっていて非常に新鮮だったのは「容積率をもっと上げろ」ということを、市がまったく言ってこなかったことです。現在アメリカ、日本、シンガポールなどでは、どうやって容積率を上げるかということが、公私共にひとつの神話になっています。これらの国ではディベロッパーの力が非常に強いため、容積率に基づいてデザインを決められる場合が非常に多いのです。な、ぜならデイベロッパーには当然1パーセントでも容積率を増やしたい、あるいは確保したいという事情があるためです。
しかしフランスをはじめとするヨーロッパでは、かつての街づくりと現在の都市づくりが非常にインターコネクトしているという文化があるので、容積率よりもむしろ、どうやったら街区に対して高さやディスタンスのきちんとしたものができるか、ということに気を遣います。そしてそれに基づいてディベロッパーは入札しなければいけません。したがって、われわれが「この辺りはもっと下げた方がよい」と言うと、それは容積率を失うことになるんですが、それでもかまわないと市はかなり寛大です。このように容積率よりも形態、スケール、プロポーションの方が大事という姿勢が、われわれにとっては新鮮な経験でした。そうして三次元的な模型を中心に、われわれにとって一番よいと思える「フィガー・エンド・グラウンド」をつくることができました。その影響は、先ほどから申し上げているようないろいろな所で、街の形に表れてきています。
こうしてハウジングや都市のデザインも、グローバリゼーションのひとつとして、日本のマンションなどとはまた違った別の観点からアプローチできる、という経験も許されているわけです。