アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
スイスの非常に大きな特徴は、ゼネコンがいないことです。スイスではこれくらいの大きさの建物だと、施工者の代わりに建築家がファブリケーターやサブコンを管理します。スイス人の建築家はゼネコン並みの知識を持っているので、一緒に仕事をしていると、その知識にとても感心します。それがアメリカなどと全然違う点で、なるべく緻密な仕事をしようというわれわれにとって、たいへん仕事がしやすく、愉快な共同作業ができるわけです。
またスイスでは建物の質に対して長い文化があって、「ジェリイビルド」と言われる、安い建物はつくるなと言います。お金のある時に初めてちゃんとした建物をつくろう、デザインの優劣よりは性能上高度なものをつくろう、という意識が文化の中に根付いているので、そういった意味では非常にハイクオリティです。ですからこちらの言うことをきちんと理解して、協力してくれます。
ドイツやオーストリアでも、小さな建物の場合は設計事務所が管理する場合が多いようです。スイスにアトリエ5という有名な建築設計事務所があります。ここにはかなりの人数が働いていたんですが、しかし彼らの作品集を見せてもらったら、数が少ないんです。どうして少ない数の作品でこんなにたくさんの人が養えるのかと不思議に思ったことがあったんですが、その答えのひとつは、彼らは建築家としてのフィーの他に、ゼネコンとしてのフィーをもらっているからなんです。それによってゆっくりと、自分の思う通りの仕事ができるし、また優秀な人材がそうしたシステムの中から生まれてくるということは、ひとつの建築文化ではないかと思いました。ただ世界的なグローバリゼーションの中で、今後そういう文化が残っていくかどうかということは、私自身もよく分かりません。
今回は幸い、中の家具も全部設計してもらいたいという要請がありました。この写真は部屋の中央に入る「バブル」と称した、ちょっとしたカンファレンス・ルームのモックアップです。それからこの写真は向こうのライティング・エンジニアと一緒につくっているワーク・ステーション(コンピュータ)のための机で、すべてカスタムメイドです。
これらの計画のくぎりがつくごとに、向こうのCEOにプレゼンテーションをします。さすがスイスだと思ったのは、どの日にどのプレゼンテーションをするかということが、最初に全部決められていることです。そしてその後はその通りにバーゼルに行きプレゼンテーションをするというかたちで、今仕事を進めています。
私が学生の頃、バイブルにしていた本がふたつあります。ひとつはル・コルビュジエの作品集です。それからもうひとつが『Neue Architektur』 という英語、フランス語、ドイツ語で書かれた本で、これには坂倉準三さんの建てたパリ万国博覧会の「日本館」(1937年)やアルヴァ・アアルトの初期の作品など、いろいろと載っています。他にも、前川國男さんがおられた1928年頃に、ル・コルビュジエのオフィスに勤めていたアドルフ・ロースという著名な建築家が、チューリッヒに建てた有名なアパート「Zwei Mehrfamilienhauser」も取り上げられています。このアパートには『Space, Time and Architecture(空間・時間・建築)』を書いたジークフリード・ギーディオンという、アメリカのハーバード大学で長く教えた建築史家も住んでいました。
私にとってスイスの建築というと、このアパートのイメージが強くあります。今回つくった建物は、ある種のスイスらしさという意味で、このアパートへのオマージュになっています。