アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
私は45歳まで建築の歴史を専門として先生をやっていました。そこで、世界中のそれこそ古い建物から現代建築まで、さまざまな建築を見てきました。その中で、私が心打たれ、このような建物をつくることができたら幸せだなと感じた建物3つを、まず最初にご紹介いたします。
また、当時私が教鞭を執っていたのは、明治以降の日本の近代の歴史が中心であったため、本日講演会を行う「大阪市中央公会堂(1913年、原案:岡田信一郎、実施設計:辰野金吾・片岡安)」も、建物の調査に訪れたことがあります。本日久しぶりに拝見したのですが、リニューアルが行われていることもあり、以前よりもだいぶ綺麗になっていると感じました。古い建物は、継続的に手を入れながら使用することで、時代に即してその魅力を変化させながら存在できるところが素晴らしいですね。
ポルトガルの石の家 外観
まず最初に、私がお話をする際にいつも紹介する建物をお見せします。これは、私が今まで見てきた中で最高の建物だと思っていて、いつかこんな建物がつくれるとよいなと考えるのですが、まあできません(笑)。私が初めて訪れたのは20数年前で、この建物は、ポルトガル北部のモレイラ・デ・レイにある、絵描きが地元の建築家に頼んで建てた夏のアトリエだそうです。歴史的なものではありません。ポルトガルは国土が南北に長く、北大西洋からの風により、この建物の敷地の辺りまでは雨が降ります。それよりも内陸側は雨が少なくなり、スペインの膨大な砂漠が広がります。敷地はごろごろとした石がたくさんある場所で、その石を使ってこの建物はつくられています。石の上にコンクリートのスラブを架け、屋根瓦を載せ、壁はコンクリートの上に小さな石を貼り、ドアや小さな窓が設けられています。内部には、煙突の付いたかまどとベッド、イーゼルが置いてありました。この場所は、その昔羊飼いが夏の間にここへ羊を連れてきて、石の間に小屋掛けをして暮らしていたようです。水は、石を掘ってそこに雨水を溜めて確保していた跡がありました。
この石の家を知ったのは、たまたま私が教えていた学生がポルトガル・リスボンへ留学に行っていて、私がヨーロッパに行った時、その学生が「私の好きそうな建物がある」と、写真を見せてくれたのがきっかけでした。初めてその写真を見てびっくりし、予定を変更してでも実際に見に行きたいと思いました。しかし、ポルトガル・ポルトから山側へ行った場所、というぐらいの情報しか分からず、タクシーの運転手に写真を見せて、半日がかりでやっと辿り着くことができました。
こういった建物の特徴は、どこからが自然で、どこから建築かが分からないという点にあります。建築と自然が一体化しているのですが、単純に一体化しているのではなく、建築として見ても面白いし、自然として見ても決して建築によっていじめられているわけではなく、お互いを引き立て合う関係があります。このことは、「建築」というきわめて人工性の高いものと「自然」をどうするか、というテーマに非常に重要な指標を与えてくれました。