アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
ここからは、テーマを変えまして「建築の緑化」についてお話ししたいと思います。まず、最初に建築の緑化を叫んだのはル・コルビュジエ(1887〜1965年)です。彼は「モダニズム建築の五原則」の2番目に、屋上庭園を挙げています。しかし、実際にフランス・ポワシーの「サヴォア邸(1931年)」に行って見てみると、屋上庭園があまりポジティブにつくられているように見えない。きっと、本当はやりたくないけれど、モダニズム建築の条件として屋上庭園と言ってしまった手前、仕方なくやっているのではないかと思いました(笑)。緑と建築が合っていないのです。それぞれが並んでいれば問題ありませんが、一体化した途端に合わなくなるのです。それを、どのようにすればちゃんと一体化できるのか、ということが次の私の大きなテーマになりました。
私がこれまで見てきた建築で、いちばん緑と建築が合っていると感じたのが「芝棟」です。茅葺き屋根の棟部分に草が人工的に植えられています。これは、雪国を除く、日本列島のほぼ全域にあったと思われます。関東地方にも芝棟は多く存在していたようで、箱根の旧関所の街並みを見ると寄棟屋根に草を載せているものが見られます。歌川広重(1797〜1858年)の「東海道五十三次」の絵を見ると、ところどころに芝棟が描かれているのが分かるので、東海道は、江戸から箱根までの何分の一かは芝棟の街道であったのですね。実は、芝棟は日本だけでなく海外でも見られます。フランス北西部のブルターニュ地方でも芝棟があり、植えているものも基本的に同じで、日本でもイチハツを植えますが、フランスの場合はイチハツしか植えません。種類は圧倒的に日本の方が多い。
民家の芝棟
ノルウェーの竪穴住居
北欧の民家では、土葺きの屋根というものがあり、屋根の下地の上に耐水性の強い白樺の木の皮を防水層として敷いて、その上に土を敷いて草を生やしていました。これは、縄文住居の原型にも使われていたと考えられています。一般的には縄文時代の住居は茅葺き屋根とされていましたが、これはかなり後期のもので、本来は防寒のため土葺きで、最近では復元等もどんどんされるようになってきました。中国にも殷墟(いんきょ)という遺跡がありますが、ここでも防寒のために土葺き屋根としていました。
こういったさまざまな時代背景から、私も是非やってみたいと思って設計したのが、赤瀬川原平(1937〜2014年)さんの家「ニラハウス(1997年)」です。屋根一面に鉢植えのニラが置かれています。屋根一面のニラは、畑だか建築だかよく分からない素晴らしい眺めなのですが、管理がたいへんです。赤瀬川さんがずっと手入れをされていましたが、老齢になられて屋根に上がれなくなり、屋根は葺き直して今では一部だけにニラを生やしています。
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