アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
ジェンネの泥のモスク 外観
次に、アフリカ大陸のサハラ砂漠の西側に位置するマリ共和国の、ジェンネ旧市街に建つ巨大な泥のモスクを紹介します。1988年にユネスコの世界遺産に登録されました。このあたりは、地中海沿岸諸国と西アフリカの一大交易拠点として栄えてきた場所です。地中海側からは、サハラ砂漠を越えニジェール川の河船に乗せられて岩塩やビール、木綿、ガラス、鉄等が、また、西アフリカ側の森林地帯からは、同様にニジェール川の河船によって金や象牙、動物の皮等が運ばれ、交換されていました。
アフリカの交易拠点としては、ジェンネからニジェール川沿いにさらに北に位置するトンブクトゥも有名です。トンブクトゥもモスクや聖廟を含む歴史地区が世界遺産に登録(1988年)されましたが、イスラム過激派によって2012年に破壊されてしまいました(現在は地元職人の手によって復元された)。その過激派が、トンブクトゥの次に目を付けたのがジェンネだったのですが、マリはかつてフランスの植民地だったことから、フランス軍が急遽部隊を派遣し守ることができました。首都であるバマコからジェンネまで向かうには、2日くらい砂漠をジープで横切らなければ行くことができませんし、現在はバマコでもゲリラ戦が行われているため、訪れるのがなかなか難しい状況にあると思われます。
ジェンネの泥のモスクは、すべて日干しレンガでつくられています。壁からはいくつもヤシの木の束が突き出ていますが、これは年に一度お祭りのように泥を塗り直すための足場として使用されるものです。この建物を初めて見た時、すぐには理解ができませんでした。今まで見たどの建物とも異なり、捉えどころがなく、よいとも悪いとも言えない不思議な建築を見たような印象が残りました。翌日もう一度見に行って、はたと思い付いたのが、足元の泥はそのまま建物の基壇となり、壁となり、屋根となっているということです。世界遺産に登録されていることもあり、泥以外を使うことは許されていないため、すべて同じ泥でつくられていて、どこにも切れ目がありません。いわゆる「目地」にあたる部分がないのです。
目地があるということは建築の条件です。なぜなら、それぞれ出生の違う材料を持ってきて組み合わせて建築をつくりますから、必ずそこには材料の境界線、つまり目地ができるわけです。しかし、自然界には目地がありません。それは、自然のものは、人間でも木でもひとつの細胞が分裂してできていますから、境目がないのです。要するに、自然のものと建築物の違いは、目地の有無なのですね。その肝心の建築の特徴である目地がないというところが、この泥のモスクに生物と建築の間のような、なんとも不思議な感じを与えているのです。ですから、生物と建築のどちらの特徴も持つような、変な存在であると思います。
これらふたつが、世界各地で見た建築の中で興味深かったものです。その後私が設計をするようになってからのテーマは、「建築と自然の関係を考える」ことでしたので、これらの建物に、おそらくどこかで影響されていたのだと思います。