アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
私が小学校2年生の時、江戸時代に建てられた茅葺きの民家を1年かけて壊して新しくする工事に立ち会う機会がありました。母方の祖父は弟子が大勢いる大工の棟梁で、私たちの家に1年泊まりながらその工事を行っていました。私はそこでこき使われていました。私は遊びに行きたかったので手伝うのが嫌でしたが、カンナ屑の片付けから始まり、壁土を足で踏んだり、いろいろなことをやらされていました。ただ、そこでは手伝うだけでなく、何故こういうことを行うのかという原理等も、いろいろ教えてくれました。例えば、民家の建て替えでは、古い材で使える材はそのまま残して使います。ただその時に、ほぞ穴の位置が変わるので、新しく手で開けた穴に水を差すのです。最初はなぜそんなことをするのか分かりませんでしたが、水を差した翌日に、木が湿っていると掘りやすいことを教わりました。このように、遊びには行きたいけれど、仕事を手伝っていると面白いことをいろいろ教えてもらえるという経験が、私にとっては大きかったと思います。それを1年間ずっと見続けていたので、大工の仕事は面白いなと感じていました。
それから大学に入り、設計と施工が分離していることには本当に驚きました。当然ながら、大学では大工の話はしないわけです。私はずっと大工の仕事がしたいと思って大学に進学したのに、大工の仕事と大学側の教育がまったく別だったことを知り、びっくりしました。ただ幸いなことに、大学院に入って師事した先生が材木屋の息子で、大工の仕事や大工道具に非常に興味をお持ちでした。その後も、建築の歴史を専門としたおかげで、大工の仕事がそれほど遠くない環境にはいました。ですから、やはり、私が建築に進んだいちばんの理由は、大工とその仕事を身近で見ていたという経験からきていると思います。
まずは緑化です。「草屋根」の事例でも、あれだけの管理体制がないと失敗していたでしょうから、やはり建築に植物を植えるのはいちばんの失敗だと思います。「ニラハウス」では一度だけ雨漏りをしました。ただ、雨漏りはみなさん経験されているでしょうから、あまり失敗したという実感はありません。
一方で、コストやスケジュールでは基本的に失敗したことはありませんし、クレームがきて困ったことは一度もありません。民間の仕事では、施主に参加してもらえるところは一緒にやっていただくため、建築がどういうものかを実感していただけることもひとつの要因かもしれません。一般の方は建築をなんだかすごい技術だと思われていますが、実は建築は、縄文時代から続くたいした技術ではないのです。これは最近聞いた話ですが、無垢の木で床を張ってほしいと言われて施工したが、当然無垢の木は暴れるわけで、1年後に指で触って段差が分かるとクレームが入ったそうです。設計者からすると当たり前の話なのですが、一般の方は無垢の木が暴れるということをご存知ではありませんよね。私は、木造だったら材木の選定の時から施主と一緒に山に入ったり、材木屋へ行ったりします。そうすると、施主自身も一緒につくっている意識が芽生えますから、少しくらい失敗しても、何も言われません。
過去に一度、まずいことが起こりました。「ニラハウス」は、屋根に板が張ってあります。当然、壁にも張ってあるのですが、なんとか確認申請に通りました。よく通ったなと思っていたのですが、竣工後緑化が環境に配慮していると市によって優秀建築賞に表彰されたりもしました。しかしその後、屋根に木材を使用しているから建築法違反だと投書がありました。どうやら確認申請時に見落としてしまっていたようなのですが、市としては既に認可しているし表彰までしてしまっているので、そのままになりました。この問題の後に、隈 研吾さんが「馬頭町広重美術館(2000年)」の時に屋根に木材を並べる案を提出したらしいのですが、「『ニラハウス』の時に困ったので、今回は不燃の木材を使いなさい」と言われたとのことです。当時、不燃の木材が開発されていたので、隈さんはそれを使うことができたのですが、今後はその不燃の木材があるので、それを使えば大丈夫ですね。
また、建築基準法は国土交通省の縄張り以外には適用されません。「高過庵」の建つ畑は農林水産省の縄張りなので、畑の工作物に対して国土交通省が何かを言うには、大臣を通さなければいけないのですが、あんなもののためにわざわざ大臣を通す人はいないですし、畑の建物には、「農業生産に必要なもの」という簡単な基準しかありませんから、実現できたという背景があります。
以前、他の茶室の時、市の建築課長さんが来られて、最初の質問が「茶室ということですが、これは建築ではなくて彫刻ですよね?」とおっしゃるので、「はい、そうです」と答えると、「ありがとうございます」と、そこで話は終わりました。基本的には、建てた本人にしか迷惑がかからないものだから大丈夫であるという理解なのでしょうね。お目こぼしのような感じなのかもしれませんが、一度も具体的な問題にはなっていません。
それと、みなさん、スペース上の問題をクリアするため、階段ではなく梯子を使用できることをご存知でしょうか。栃木県宇都宮市に東京ガスの「SUMIKA Project」でつくった「コールハウス(2008年)」では、2階への階段を一部梯子にしています。施主から了解をいただいたので、市役所の建築課の人にも確認を取り、「規定がないから問題ない」ということで実現しました。その他にも、入口のドア幅を45cmにしました。絶対に真っ直ぐには通れない幅なのですが、廊下幅の規定はありますが、ドア幅の規定はないため、施主さえ了解してくれれば、けっこう実現できることはあるのです。
ただ、これは国によって異なります。イギリスには梯子についての規定があるのですが、これには驚きました。梯子の末端が、段から両側ともさらに1メートルそのまま伸びなければならないのだそうです。なかなか細かな規定ですよね。さらに、イギリスでは建築基準法の他に、「ヘルス・アンド・セーフティ(衛生と安全)」という法律のようなものがあり、大きな現場ではチェックが入ります。梯子に対して、イギリスでは基本的に土足なので、手が汚れて衛生的に悪いという指摘が入りました。この衛生問題をどうするかと問われて、「横を掴むように指導します」と言ったら、無事通りました(笑)。ちなみに、私は法律の隙間を狙って設計しているわけではなく、元もと階段より梯子の方が好きなのでよく使っています。梯子は必ず三点支持となっているのに対して、階段はそこを二本足で歩きますから、階段は危ないのです。梯子の方が安全なのです。
そんなこともあって、法律的なことでは、あまり苦労していません。
「コールハウス」南側全景
「コールハウス」階段室 寝室へは梯子、主寝室へは階段を上る
「コールハウス」断面