アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
妹島
「スタッドシアター・アルメラ」とほぼ同時期に取り組んだコンペが、金沢市の街なかにある「金沢21世紀美術館(2004年)」です。展示という性質上、どうしても壁面がたくさん必要になり、建築としても街の建築とは違った大きさを持ちます。この美術館は街なかに建つという敷地だったので、どのようにすれば美術館が街と混じり合うような建築となるか、考え始めました。「スタッドシアター・アルメラ」では廊下と部屋の区別をなくして全体をつくりましたが、「金沢21世紀美術館」はそれらを分けて、館内で街を巡ることができるような構成にしました。来館者は館内を歩くと、街歩きの時にお店からお店に移動するような感じで、展示室から展示室に移動する。移動する際に、それぞれの部屋の間で視線が抜け、さまざまな形で街を散歩するような体験ができます。
コンペは、交流ゾーンと美術ゾーンの二つを求められるプログラムでした。コンペ応募者の多くはその二つを別々の建物として計画して、2棟間を交流のための中庭にするという提案だったのですが、私たちはそれらを一体として、円形の建物を提案しました。円形の建物の中央に美術ゾーン、周辺部を交流ゾーンとしました。一つ一つの展示室のブロックには可動扉があるのですが、それを開けたり閉めたりすることによって美術ゾーンを拡大したり分割することができます。すべての展示室を仕切って、色々なキュレーターを集めて一つの展覧会を開くなど、さまざまな形で使うことができます。展示室は壁で閉ざされていますが、それを使い方や体験によって柔らかな空間にできないか、街ともうまく繋げられないかといったことを色々と考えていました。
西沢
中央が美術館の有料ゾーンになっているのですが、美術館ゾーンは通常であれば大きく不透明な塊になります。しかし「金沢21世紀美術館」は、個々の展示室を離して配置しているので、あちこちに透明感があって抜けていて、不透明なボリュームが巨大化しません。外観も明るくなり、外部にいても内部を通り抜けることができそうな雰囲気を感じられます。また、無料ゾーンと有料ゾーンの違いも一見分からないような、有料ゾーンと無料ゾーンの連続感があります。展示を見る順番を定めないということも意識しました。たとえば複数のキュレーターを呼んで複数の展覧会を同時にやる時には、入口も複数設定することができますし、必ずしもチケットセンターのある場所から鑑賞を始めなくてもよい計画です。展覧会の性質や規模に応じて、美術館の範囲が大きくなったり、小さくなったりするのは面白いと思いました。今まで有料ゾーンとして使われてきていた空間が、ある日久しぶりに訪れてみたら、そこが無料ゾーンになって通り抜けることができるようになっていた、というような経験も面白いと考えました。
平面的に大きな建築なので、中庭を配置して内部に光を与えています。ただの採光用の中庭ではなく、屋外アートを置いて展示室にしています。中央を美術ゾーン、周辺部を交流ゾーンとしてはいますが、実際にはアーティストが展示室の外でも展示したいと希望するケースも多いですね。「明後日朝顔プロジェクト21(2006~2008年)」は、日比野克彦さんのアートであり、かつ子どもたちとのワークショップでもある作品です。建築の壁面が丸いという点に着目して、朝顔を壁面に沿ってぐるっと植えると東西南北で育ち方が変わってくるということで、たいへん面白い作品です。特に朝顔が伸びてガラス面が覆われていくと、半屋外空間のような感じで不思議な開放感が出て非常に面白いと感じました。
妹島 ある時、市内でギャラリーを経営されている方が、興味深い話をしてくださいました。「自分のギャラリーは、金沢21世紀美術館の展示室の一つがこちらに飛んできたようなものだ」と。「金沢21世紀美術館」の、展示室がそれぞれ分かれて独立しているという空間構成が、そうした視点に繋がるのだと思いました。もともと私たちは、「金沢21世紀美術館」を街のようだと説明してきました。敷地から離れたところにも展示の一部があると考えると、金沢の街全体でギャラリーのネットワークが形成されているようにも感じられます。実際、若い方が周辺に新しくギャラリーをつくって、「金沢21世紀美術館にはレアンドロ・エルリッヒのプールが展示されているので、自分たちはレアンドロ・エルリッヒの別の作品を展示することにしました」と話してくださった方がいらっしゃいました。どんどん美術館と街が繋がっていく。美術館を訪れる人、使う人びとによって拡張されていっているということが起きていると感じています。
「金沢21世紀美術館」休憩コーナーから光庭を見る
「金沢21世紀美術館」ホワイエから光庭を見る
「金沢21世紀美術館」全景
「金沢21世紀美術館」平面