アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
妹島
豊島から船で岡山方面へ40分ほどのところに、犬島というとても小さな島があります。私が犬島に関わり始めた2008年当時は、58人の住人が住んでいたのですが、今はもう20数人になっています。住人の平均年齢は当時からあまり変わらず80歳ほどです。空き家がたくさんあったので、その空き家を使って島を元気にできないか、というところから「家プロジェクト(2013年)」は始まりました。はじめは小さな古い住宅を展示室へ改装することが、どのように集落や島との関係性に展開するのか不安だったのですが、プロジェクトがだんだんと増えていくにつれて、こうした活動自体が建築で、島全体がランドスケープになっているのではないかと感じるようになりました。そこで個々の場所の魅力をできるだけ引き出し、点在する場所を連続させるように心がけました。民家をギャラリーに転用する際、改修する場合と新築する場合があります。改修の場合は基本的に全部バラして、朽ちて使えない部分と使える部分をチェックし、もう一度、組み直します。私は既存の柱や梁など、使える状態であれば活用し、どうしても使えなければ新しい材を使うけれども、その時は建物の歴史や文脈を広げていくような役割を新しい材に与えようと考えました。
一つ目のプロジェクトであるF邸では、改修した時に新しい部分と古い部分が対比的になるのではなく、新しいのか古いのか分からないような状態を目指しました。既存の材料は基本的にリサイクルして使い、新しい材料を用いる場合は、古い状態と馴染むようにしました。新旧の両者が混じり合った状態を目指しました。室内のアートは常設展示ではありません。家プロジェクトでは五つの展示室のいずれかで、瀬戸内芸術祭の会期などに併せて展示替えが数年おきに行われ、全体像が少しずつ変わるように運営されています。
F邸から少し離れたところにある、S邸とA邸はどちらも完全に母家が崩れてしまっていました。建物は残っていましたが、天井から水が入ってきており室内も傷んでいたので、そのままではまったく使えませんでした。犬島には車が通れる道がほとんどないほど細い路地が連なり、S邸とA邸も路地に面していました。建て替えるとなると法規上どうしてもセットバックする必要があり、そうした与条件から展示の設置位置を決めました。展示空間は曲げた状態のアクリルを島外の工場から運び込み、手で組み立ててつくりました。
C邸も、既存の民家をばらして組み立てており、朽ちた部材は新しく付け替えました。構造は、F邸では鉄骨のブレースを入れており、一方でC邸では鉄骨は使わずに大きな貫でつくっています。どちらも現代の構造要件を満たしています。建物の外周部は厚い雨戸になっています。これは雨戸を閉じて室内を真っ暗にして映像作品を展示することに使ったり、開け放って外と中が一体的な小屋のように使ったりすることもできます。
I邸は、白い壁の展示室を一つだけつくってほしいという話を受けて設計しました。2階建てを減築して1階建てとして、構造のために大きなフレームを真ん中に立て、窓を2カ所大きく開けました。二つの風景が繋がるような展示室です。I邸は何度も展示替えをしているのですが、アーティストの方々は皆さんこのフレームに反応してくださいます。
「犬島『家プロジェクト』」C邸。
既存民家の古材はその表面をみがくことで新材と色合いを合わせている
「犬島『家プロジェクト』」西側よりS邸を見る
「犬島『家プロジェクト』」I邸を見る
「犬島『家プロジェクト』」F邸。2010年に完成した木造のギャラリー
「犬島『家プロジェクト』」中の谷東屋
「犬島『家プロジェクト』」配置