アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

トップ
私の建築手法
妹島和世+西沢立衛/SANAA - 環境と建築
荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)
2022
2021
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986

2022 東西アスファルト事業協同組合講演会

環境と建築

妹島和世+西沢立衛/SANAA
KAZUYO SEJIMA + RYUE NISHIZAWA / SANAA


«前のページへ最初のページへ次のページへ»
荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)

西沢 「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)(2017年)」は山形県鶴岡市にある市民会館の建て替えです。鶴岡市は中心部に歴史的な建物や町割が多く現存する美しい街です。隣接した敷地には致道館という美しい旧藩校があります。周りは低層の建物が並ぶ、静かな地域です。既存の市民会館はフライタワーで20メートルほどあったのですが、老朽化にともない建て替えることになり、30メートル以上のフライタワーを持ったホールを計画することになりました。
鶴岡市の市民会館は、通常の多目的ホールとは違い、この地域で育った子どもたちは発表会などで、みなさん必ずと言ってよいほど、一度はこの市民会館の舞台に上がっているということです。観客として来場するだけではなく劇を演じたり、演奏したりした経験をほとんど全員が持っているということで、市民の方にとって非常に身近で、愛されてきた施設でした。私たちは一番高いフライタワーを敷地の中央に配置して、道路に向かって徐々に低くする勾配屋根を計画しました。一つのボリュームにすると非常に大きな建築になってしまうので、ボリュームを分節し、またそれらに複数の屋根を架けて、屋根の複合体として建築全体を計画し、スケールの威圧感を抑えようと考えました。屋根は道路に向かって下がっていき、道路側から見て一番遠いところが高くて、道路沿いは1層分の高さにしており、フライタワーの角があまり大きく見えず、視覚的に遠くに見えるようになっています。
また大ホールの周辺に回廊を巡らせて、プロの公演時には回廊を仕切って表と裏に分け、街の人が使う時には仕切りを開けて館内をぐるぐる回れるような形にしました。個々の部屋も、楽屋や会議室、練習室として使うこともできますし、使い方次第で空間に表裏ができたり、それらの区別が完全に消えたりするというものを考えました。

妹島 設計開始時に、前の施設を見学した際も、小学生から高校生くらいの子どもたちが、市民会館の周りの廊下やちょっとした庇の下で練習をしていました。そうした光景を見ていたので、色々な場所が練習室として開放されるとよいなと考えるようになりました。

西沢 建物はL形の敷地に合わせて建っていて、平面は四角でなく、いくつもの形が集まった形状になっています。屋根は搬入、楽屋、エントランスのように機能別に分割しています。致道館が敷地の横にあるので、平面もカーブさせてホワイエを配置しました。
ホールはシューボックス型ではなく、ハンス・シャロウンが「ベルリン・フィルハーモニー(1963年)」のコンサートホールで採用したワインヤード形式と呼ばれるものです。ステージを囲むように客席を配置していて、幅が広くて奥行が浅いので演奏者と観客に一体感が生まれます。ワインヤードの畑一つ一つが分けられているように、客席を腰壁で仕切っており、場所ごとに違った印象にもなります。各場所に個性があり、空間性が異なるので、ここで聞いた音を次はこっちで聞いてみようか、といったこともできて面白いと思っています。1階と2階はホール内の階段で繋がっているので、2階席から1階やステージに降りる時に、ホール外に出なくてもそのまま降りてくることができます。カーテンコールやアンコールで観客がわーっと盛り上がった時に、2階からステージまでダイレクトに降りてこれるので、色々な形で観客と演奏者の一体性を感じられるのではないかと思っています。

妹島 クライアントと打ち合わせをした時「1,200席は一年に一度くらいしかいっぱいにならないけれども、どうしても呼びたい人に来てもらうために1,200席が必要」だとおっしゃっていました。一方で、そうすると小さな規模の講演会や演奏会の時には、人がいなくてがらんとしてしまって寂しいだろうとも思いました。ワインヤード形式にすると、1,200人弱入る時にはホールがいっぱいになりますし、逆に200人ほどしかいない時は、皆さんバラバラに座るので、それなりに200人用のホールのように感じます。実際にホールを使った練習を見学した時に私も経験しましたが、好きなところに皆さんパラパラと座って、50人ほどの座席を5~6人でゆったりと座って全体に広がって、寂しい感じにはなりませんでした。このホールが竣工して、利用が始まるととても人気で、一年に一度しかいっぱいにならないということは、どうもなくなってきているようです。

「「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」北側俯瞰」の写真

「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」北側俯瞰。写真右に致道館を見る

「「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」断面」の図

「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」断面

「「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」左手にエントランスホールを見る」の写真

「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」左手にエントランスホールを見る

「「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」中心のホールからエントランスに向かって天井が緩やかに下がる」の図

「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」中心のホールからエントランスに向かって天井が緩やかに下がる

「「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」ワインヤード型ホール。可能な限り奥行を抑えることで客席と演者との一体感を目指している」の写真

「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」ワインヤード型ホール。
可能な限り奥行を抑えることで客席と演者との一体感を目指している

「「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」1階平面」の図

「荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)」1階平面


«前のページへ最初のページへ次のページへ»