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東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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内藤 廣 - 建築にできること
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東西アスファルト事業協同組合講演会

建築にできること

内藤 廣HIROSHI NAITO


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昔のことを思い出すと、いろんなことの始まりが、自分の卒業設計の中にあったような気がします。そんなことを考え始めたのは最近ですけれども、どうもそんな気がします。吉阪隆正先生から一撃をくらったことが、いまだに尾を引いています。私の卒業設計は集合住宅からさまざまな施設を連続的に並べてかたちにオーダーを与えるというような変なプロジェクトでした。当時、生意気な学生だった私は、吉阪先生に卒業設計の相談しがてら、人間の生死と建築の話をしました。「人間が人間を殺せるものか」という話を先生にしました。先生は、第二次世界大戦のときに将校として中国大陸に出兵をしていました。そのことについては、その後も何も語っていないんですが、先生が、「道具をもってすれば可能かもしれない」といわれたことが印象的でした。次に私に向かって、「君は生きるということ、人間が建築の中で生きるということばかり考えているけれども、それだけでは君のいっていることの全体像ははっきりしない。死について考えたまえ。死について考えれば、生きている人間のこともわかりやすくなる」といわれました。それで、わからないなりに私は卒業設計をやりました。どういう卒業設計になったのかというと、集合住宅から流れるようにさまざまな施設、それはここのホールのような施設もあるし、ショッピングのような場所もあるし、さまざま、徐々に変化をしていって、最終的に墓地に流れつくようなプロジェクトをやりました。死について考え始めたのはその頃のことです。

それ以来、私は日本のコミュニティをどうやってみるかとか、建築について考えるときに、必ず死について考える癖がつきました。例えば、本来建築と呼ばれてきたものは、人間が生きることよりも死ぬことを象徴するような場所に有効に現れたのではないか、というように考えてみたりもしました。ピラミッド、神殿、アクロポリス、寺院にしてもそうです。われわれが建築と呼んでいるさまざまなものは必ず、「死」といういい方はおかしいかもしれませんが、エロスに対してタナトスという概念がありますが、そのタナトスのエレメントが大きい場所、そういう場所のことを建築と呼んできたのではないかと思います。

みなさんが京都に行くと、京都でご覧になるのは神社仏閣です。もちろん先斗町や四条河原町という人もいるでしょうけれども、基本的に京都の骨格を成り立たせているのは神社仏閣というタナティックな部分です。一般の集合住宅や商業施設を「建築」というふうに呼ぶようになったのは、恐らく二十世紀に入ってからで、近代建築が集合住宅であれ何であれ、建築的なものを込められるのだということが一つの契機になったように思います。これはぼくの独断と偏見なので、みなさんご自分でもう一回少し考え直してみてください。

私がそういう考え方に最終的に立ち至ったのは、「海の博物館」をやっていたときです。最初はそんなこと考えずにやっていましだ。お金のない博物館でしたから、まず最初に収蔵庫だけをつくることになりました。収蔵庫には重要文化財が入ります。重要文化財が入ることは、特別な意味を持つわけです。つまり、その中に収められたものは老化してはいけないのです。要するに老いるスピードが百分の一ぐらいのスピードになることを前提にしているわけです。それは古文書だったり、古い道具類だったりしますけれども、ついニ十年か三十年ぐらい前に、生活用具として使われていたものが収蔵庫に入った途端にある種固定されるというか、フィックスされるわけです。いってみれば、日常生活にあったときに生きていたものが死ぬということ。死ぬというのは悪い意味ではないのです。時間の中で動かなくなるということです。収蔵庫とはそういう場所かもしれないと思うようになりました。みなさんは美術館に行って美術をご覧になると思いますが、その美術は、家の居間にかけていると紫外線が照射されて瞬く間に劣化するわけですが、美術館では劣化しないようにする、つまり時間を止める、そういう場所が美術館です。

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