アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
高知県の仕事で植物分類学の牧野富太郎氏を記念して建てられる博物館です。実際は記念館であり、博物館であり、研究所という建物です。牧野さんをご存じない方は実はいないんです。植物図鑑を見ると、どれにも牧野さんの名前が載っています。日本の植物の三分の一は牧野さんが命名した植物です。
全体像がわかりにくいので、模型でまずご説明しようと思います。高知市のはずれの五台山という小さな山の上に建っています。弘法大師が訪れたという霊場になっている歴史的にたいへん由緒のある山です。県のほうが敷地の一部を手配できなかったために、建物が二つに分棟化されています。二百メートルぐらい離れていて、それを回廊でつないでいます。研究と収蔵を中心にした棟と、牧野さんに関する資料の展示を中心にした棟です。研究棟の二階の屋根の下を通って回廊を二百メートル歩いて展示棟に入ります。構造体はほとんど集成材を使っています。大断面の集成材を使った架構です。
屋根に直径が約三十センチの鋼管パイプを使用しています。コンピュータに入れて三次元で超音波で曲げていく特殊技術を使っています。背骨の部分だけはスチールでやっています。あとは集成材です。立ち上がっている壁はRCです。建ち上がり始めたときは、高知の人の間で、山の上に木造のジェットコースターをつくっているらしいという話が広がりました。
なぜこんなかたちにしたのかとよく聞かれます。このプロジェクト以前も、私はできるだけ地形に沿わせてとか、地形の中で消えるようにとかいってきましたが、どうもまだ建築の枠の中でしか考えていないんじやないかと感じていました。本当に建築がその場所の地形に沿うことは、建築のほうの仕組みをもう少し、その場所、土地になじませるやり方があるんじやないかと。建築のほうからむしろ自然に寄り添うやり方があるんじやないかと思い、こういうやり方をとりました。五台山という土地の形状をできるだけ変えないで、建築のほうでできるだけ柔らかにそれに寄り添うというような方法です。
地形に寄り添うと考えて、ヒラメを思い出しました。所員が探してきたヒラメの骨の写真を眺めて、実におもしろいストラクチヤーシステムをヒラメの骨はもっていると思いました。また、岩にぴたっと張りついている濡れ落ち葉の葉脈を見たときに、ああ、こういう考え方もあるかなど、アナロジーを繰り返して、こういう形態をつくりあげました。
今から考えればこんなことやるんじやなかったという気分もあります。というのは実際につくるのにあまりにたいへんだったからです。ビームが四百二十本あります。一番長いスパンで十七メートルぐらい飛んでいます。短いところは二、三メートルです。その四百二十本が全部長さが違って、全部角度が違って、なおかつそれを梁に結びつける三角プレートが一つも同じものがないんです。これを施工図のレベルでチェックをしたり墨出しするのは至難の技です。施工については竹中工務店にたいへん助けられました。
集成材のジョイントは、通常ですと集成材の真ん中にスチールプレートを挟み込んでボルトで両方から閉めるわけです。基本的には集成材がボルトの剪断力でもっているわけです。それが気持ち悪いので、新しいジョイントをつくりたいと思い、鋳物でくわえ込んで上下で止めることにしました。集成材も、建物全体の応力の分担の仕方としては、引張力ではなく、できるだけ圧縮系で使っていくことを考えました。圧縮力がきれいに伝達されるように、原寸大でジョイントのスタディを繰り返ししました。
風が強いところでして、風洞実験を県のほうにお願いしてやりましたところ、場所によっては負圧が平米一トンになることがコンピュータ解析でわかりました。平米一トンということは、重力よりもきつい引張力が屋根のほうにかかります。そこで建物の設計や構造を全部見直してつくりました。