アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
私の建築とのかかわりの今までの大ざっばな経緯をお話しました。建築家という仕事を悲観的な方向でいったようにとらえられると困ります。建築家はかなりおもしろい仕事で、かなりの可能性、要するに今の世の中に対して可能性を開く、やりがいのある仕事だと思っています。特に、今日この会場に来ている若い諸君はぜひともそのことを自覚してもらいたいと思います。こういう混乱の時代にあって、若い世代はチャンスです。何事も起きない時代だと若い人は出る幕がないけれども、明治維新をつくったのは二十代の人間ですから、北海道も含めて世の中が大変な時代になってくると、若い人がどうやって次の時代を切り開くかということを、大手を振って論じることができます。あるいは議論を仕掛けることができる時代だと思います。ですから、ぜひともそのことだけは覚えておいてもらいたい。
建築家の仕事も捨てたもんじやないということを具体的な経験を通して話します。私が海の博物館をやっていましたときは、先ほども申し上げたようにつらい、私自身にとってはもんもんとした時期でした。坪五十万円をきっている博物館ですから、お全の苦労がたいへんでした。博物館の館長も個性的でわがままな人でした。さまざまな状況が逆境としかいえないような状況でした。
収蔵庫が出来上がりました。風除室がその手前にあるわけですが、ドアはたいがい閉められていました。冬場のある夕方、そのドアが開いていました。閉め忘れたんです。タ方の五時ぐらいでした。収蔵庫の船の部屋にいたときに、一瞬何が起きたかわからないようなことが起きました。その部屋が真っ赤に染まったんです。本当の赤です。空間全部が染まったんです。ほんの五分ぐらいの間です。そのときだけ夕陽がほとんど真横に風除室を抜けて、その奥の収蔵庫の部屋に当たって反射して、空間自体が真っ赤になるという経験をしました。これはこれまでさんざん苦労をしてきたので、何かのご褒美でもらったのかなと思いました。本当に恍惚とした体験をそのときにしました。
もう一つは、やはりこれも海の博物館ですけれども、木造の展示棟がありまして、外壁は真っ黒な塗装をかけてあります。これもやはり冬場ですけれども、思ってもいなかったことに、その外壁が本当にゴールドに染まったんです。昼間はただの黒い板張りの壁面が、ゴールドに輝いたときがあります。これも特殊な条件で、反対側の入り江の海にリバウンドした光が、たまたま当たる角度によってそういうふうに見える瞬間があるわけです。これも一年のうちに多分一週間とないと思います。
建築の現場に行っていると、そういうような何か設計では思いもよらない出会いがあります。これは捨て難いことです。多分ほかの職業をやっていたら、こういうような経験は得られないのではないでしょうか。苦労に苦労を重ねてその場に踏みとどまっていると、ときたま何か一生忘れられないようなすばらしい建築というか、その場所との出会いというものがあるのです。若い諸君には、一生懸命やっていると、そういうこともあるんだから建築は捨てたもんじやないよ、といいたくて、その話をしました。
それでは、スライドに入りましょう。