アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
ご存知かとは思いますが、私たち夫婦、手塚貴晴・由比はいつも、それぞれ青色と赤色のものを身に付けています。私がいつも同じ青いシャツを着ているものですから、汚いのではないかと言う人がたまにいますが(笑)、実は100着以上同じものを持っているので、戸棚の中にはたくさんの青いシャツがあります。同じように、うちの奥さんもたくさん赤い服を持っています。ある時、夫婦の共有物は黄色にしようと決め、黄色の車を購入し、さらに、長女の色が黄色になりました。次に、息子ができたので、息子も黄色にしようと思っていたら、三歳になった長女が自分の色を取られるのが嫌だと言うので、息子の色を緑にして、青、赤、黄、緑の、色とりどりの家族になりました。
なぜ、こういった家族の話から始めるかと言うと、私たちのデザインは、自身の体験から来ているものが多いからです。特に家族は、アイデアのソースになります。よく、学生に「どうすれば、そんな面白いことを思い付くんですか」と聞かれますが、私は「思い付いているわけじゃないんだよ」と答えています。これは冗談ではなくて、アイデアは当たり前のようにどこにでも転がっていて、それに気が付くか、気が付かないかというだけだと思っているからなのです。
また、以前ハーバード大学で講演をした時に、聴講していた学生から「手塚さんは、子どものことをよく分かっていますよね。どうやったら、子どものことがそんな風によく分かるようになるのですか。どういう本を読んで勉強されているのですか」と質問されたことがありました。この答えはすごく簡単です。もし子どものことを分かりたいのなら、まずガールフレンドを見つけて、それから、彼女に結婚してもらう。そして、ふたりの間に子どもができると、自ずと分かります。つまり、体験することができれば、理解できるのです。
また、私たちの事務所のあり方も、常に暮らしに重きを置いています。私たちはアトリエタイプの事務所ですが、同じようなアトリエ事務所には、徹夜ばかり、一週間家に帰っていない、といった事務所がたくさんあるのが現状です。ですが、私は事務所を始める時、事務所のみんなが人間らしい暮らしができるようにしようと決めました。例えば、朝10時までは事務所に出社しないようにと呼び掛け、もし10時までに来た所員がいたら、その分夜は早く帰りなさいと話をしています。あんまり遅くまで働いて、終電の時間のぎりぎりまで事務所にいる所員には、早く帰りなさいと追い出してしまいます。とはいえ、実際にはそうはいかず、気が付くと所員はがんばって徹夜をしていたりするのですが、少なくとも何とかしたいとは思っています。
さらに、うちの事務所では、過去二年間で、事務所の中で六組の結婚式がありました。そのせいか、東京では「建築界の結婚相談所」などと言われています(笑)。働いているうちに、ものすごくみんな仲よくなって、いつしか結婚式を挙げる。さらに、うちの事務所の中には、クルーズイエローというロックバンドが存在して、結婚式の時にはみんなでロックやいろいろなオリジナルの曲をつくって演奏します。ネットにも動画がアップされていて、けっこうアクセスされています。他には、事務所のみんなで自転車に乗って、富士山の五合目まで登るイベントを主催することもあります。
私たち建築に携わる人間は、自分自身が「幸せ」がどういうことか分からないと、人に対して幸せを提供することはできません。建築というのは難しくて、何でも面白い形をつくればよいというわけではありません。また、建築をつくることによって、いろいろなことが起きてきます。建築は、アートワークという枠組みよりも実は、その中でも少し特殊な分野で、人に愛してもらわないと生き残れないというところがあります。そういう意味では、建築に携わる人間は、自分のつくる建築でどうやって周りを変えていくか、という力をつけていくことが大事だと思います。そのためには、関わったみんなが幸せだと思えなくてはいけない。
そんな視点で、まずは、小さなプロジェクトからお話しを始めようと思います。それから、進行中のプロジェクト、最近勝ったコンペについてもお話しします。