アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「ふじようちえん(2007年)」では元もと、幼稚園のオーナーさんが、幼稚園のブランディングをクリエイティブ・ディレクターの佐藤可士和さんに頼んでいました。佐藤さんと私は友人で、彼から、俺がブランディングするから幼稚園を設計してくれ、と依頼されたことが始まりでした。
最初に思い付いたのは、子どもたちがずっと飽きずに遊んでいられるような場所にしようということでした。子どもには遺伝記憶というものがあり、誰かに教えられずとも本能のように反応して行動をとることがあります。たとえば、何か丸いものを真ん中に置いておくと、特に五歳以下の子どもはその周りを飽きもせず、ずっとぐるぐる回り続けます。これは、犬が自分のしっぽを食べようとぐるぐる回り続けるのと同じで、園長先生がおっしゃるには、子どもはひとり平均で47回同じことをするそうです。だから、幼稚園のかたちも丸くして、ぐるりと回れるようにすれば、子どもたちは一日中回っているに違いないと考えました。
敷地の端に張り付くようにして建っていた既存建物を壊し、園庭にあった木は、切ってしまうのはもったいないので残して、新しい建物をつくることにしました。木は根を切ると枯れてしまうので、木の根が地中のどこまでどのように伸びているかを調べた上で、それらを避けて構造の位置や基礎を検討しました。
ある時、園長先生が「屋根の家」を見に来られて、「うちの幼稚園も手すりがない方がよいです」とおっしゃったので、幼稚園ではそれは難しい旨をご説明しました。しかし、「では、軒先からネットを出しておいて、落ちてくる子どもを受け止めるというのはどうですか」と、なかなか引き下がらないので、図面を持って立川市役所へ行って交渉してみました。しかし、案の定追い返されてしまい、園長先生に戻ってそのことを伝えると、園長先生がなにやら立川市役所へ電話をし始めました。その後、もう一度立川市役所を訪れると、職員の方が弱った顔して待っていました。実は、「ふじようちえん」はすごく大きな幼稚園で、立川市役所の職員の方がたは皆さん子どもの頃に、園長先生や先代の園長先生に面倒を見てもらっていて、市長さんよりも頭が上がらない存在なのだそうです。結局、木の周りにそのアイデアを維持して、高さ1.1メートルのところにロープを張り、それを手すりとして採用することを認めてもらいました。子どもにとっては安全性など全然関係ないので、手すりのロープを難なく潜って避け、園長先生の思惑通り、木の周りに張ったネットへどんどん落ちて行きます。
屋上の手すりについては、スタディの段階でモックアップとして、太くて強くて丈夫なものと細くて弱いものの二種類をつくりました。強度があってしっかりしているよりも、揺れる方がよいと、細くて弱い手すりが採用になったのですが、どうやって安全な状態で自立させるか、施工を担当していただいた竹中工務店の方と苦労して検討しました。手すりのピッチは建築基準法で定められている10センチで、子どもの頭が入らず、でも手足は出すことができるという幅になっています。これがちょうど都合がよくて、手すりの間に足を入れて、みんなで楽しく屋上に座ることができます。下から見ると動物園の猿のようです(笑)。
また、屋上には膨大な量のケヤキの葉っぱが落ち、それがガーゴイルの下の丸い水受けに集まります。それを落ち葉プール」に持っていき、まず子どもを飛び込ませて葉っぱを粉々にして遊ばせます。次に、カブトムシの幼虫をその中に入れて育て、そのカブトムシで子どもたちを遊ばせる。最後には、そこでできた土を、この幼稚園が持っている広大な畑と田んぼに蒔いて、肥料にするのです。
建物内部には部屋を間仕切る固定壁がないので、可動式の建具や「桐ブロック」と呼ばれる箱型の家具を使って、だいたい一カ月に一度ほどのペースで模様替えをします。この模様替えも、箱形の家具の中にもぐり込んでみたり、積み上げた家具の上に乗ってみたりと、子どもたちにとっては楽しい遊びになってしまいます。また、部屋の真ん中にある四角い流しは、子どもたちに井戸端会議させようという意図でつくりました。
園庭の水洗は、普通はコンクリートの腰壁のようなところから飛び出すように設置されていますが、それだと園庭と建物内部との視線の邪魔になると共に、すぐ排水口が詰まってしまいます。「ふじようちえん」の水洗は、地面に生えた草のような形をしていて、太いパイプの先に、自由に曲げられる金属パイプがついて、それが水洗になっています。地面には木を輪切りにしたものが敷き詰められていて、その木の隙間から水を流す仕組みになっています。
この建物は決してローテクではありません。かなりハイテクです。実際に行ってみていただけると分かると思いますが、ものすごく柱が細いです。かつ、柱がどこにあるか分からないくらい、長くスパンを飛ばしています。また、その細い柱でも振動が起きないよう、共振解析を行ったり、音響環境を永田音響設計さんと研究したりしました。けれど、そういった技術はたくさん導入していますが、それ自体が目的ではないので、あえて見せていません。