アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「屋根の家」は、ふたつのことを私たちに教えてくれました。
ひとつ目は、この建築はコンセプトを説明する必要がないということ。「屋根の家」で竣工後一年目のオープンハウスを行った時、数時間のうちに四五〇人以上の人が訪問してくださいました。すると、皆さん同様に、屋根の上に登るんです。この建築について私たちが説明しなくとも、屋根に登ると面白い、と皆気付いて登るわけです。つまり、建築というのは説明が必要な時点で終わりなのだなということを、このあたりで学びました。
ふたつ目は、建築が人に対して何かを働きかけることがある、ということです。実は、「屋根の家」のオーナーさんは中学生のカウンセリングをなさっている方で、ある時、コンクリート造の無機質なビルの中で治療をやっていてもだめだ、自宅に連れてきてみようと思い立って、屋根の上でカウンセリングを始めたそうです。その中に、けっこうな悪さをしていた大柄な子がいて、彼がオーナーさんに連れられてやって来て、屋根の上に登ると、それまでとは急に態度が変わったんだそうです。「俺もこの『屋根の家』で育っていたら、もうちょっと優しい人間になれたかもしれねえな」なんて言ったそうで。建物が人にアクションを起こして、その人の人生を変える可能性があるということを、私はこの建物を通して学びました。