アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
福岡県・北九州市の東八幡に設計した、「軒の教会─東八幡キリスト教会─(2014年)」では、その名前の通り、広い軒下のような空間をたくさん設けました。
東八幡キリスト教会は、北九州で25年にわたってホームレス支援を続けている教会で、その創立60周年記念事業として建て替えが行われました。この「軒の教会─東八幡キリスト教会─」の牧師である奥田知志さんは、ホームレス支援で有名な方で、これまでテレビ番組でも2回取り上げられています。普通、ホームレスの方を社会に復帰させようとしても、大体7割型は街の中や路上での生活に戻ってしまいますが、奥田さんは約97%の確率で社会復帰をさせています。
建物は主に礼拝堂とホール、その間のホワイエで構成されており、入り口からホワイエまでの中間領域は教会員の方がたに「軒下」と呼ばれています。礼拝堂の奥には、キリストの洗礼を模して、「低みに下る」地面に潜るような掘り込み式の洗礼槽や、困窮状態の方が寝泊まりできるシェルターも設けました。礼拝堂の四方の壁に切られた明かりとりからは、内部へ光が射し込み、時間によってさまざまな表情が見られます。正午には、十字架が架けられた壁に垂直に光が射し込み、下見板の上に独特な縞文様をつくります。
また、この軒下には実は、すごくイケてない椅子が置いてあります(笑)。この教会の牧師さんはすごくデザインのことを気にする方なのですが、彼がある時、「軒下に、教会員たちが昔使っていたすごくイケてない椅子を置いてしまったんですが、合わないですよね」と私に尋ねました。おそらく、私によくないと言わせて、撤去させようと思っていたのでしょうが、私はいじわるなので「そういうことは聞かないでください」と答え、その椅子はそのまま置かれることになりました。実は私は、この出来事を聞いた時すごく嬉しくて、これこそ私が思い描いていたことだと思いました。建物は、私たち建築家がすべてお膳立てしてやるのではなくて、利用する人たちが愛して使ってくれるという感覚が大切で、この教会員の人たちは、この軒下に座れる場所があると気持ちがよいと気が付いたんですね。そして、ここに椅子を置いて、日がなここで過ごしているんです。美しいかどうかなどではなくて、人が愛して使ってくれる、これこそが建築なのではないかなと思います。
「軒の教会─東八幡キリスト教会─」は、中心は非常に神聖な空間ですが、その周りにはたくさんの軒下という人の寄り集まりやすい空間があります。そこに人がなんとなく立ち寄って救済してもらう、拠り所となるような場所です。「軒を貸して母屋を取られる」ということわざがありますが、その逆で、私と奥田さんは「軒を貸して母屋に入れる」というキャッチフレーズをつくりました。そうすると、皆で助け合うことができるような、そんな気がしてきませんか。