アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「チャイルド・ケモ・ハウス(2013年)」は、小児がんの子どもたちとその家族が、当たり前の生活をしながら治療することができる施設です。小児がんとは、子どもが罹るさまざまながんの総称で、治療が行われる病室は大きくても6平米、普通はだいたい4〜5平米の非常に限られたスペースで、子どもたちは少なくとも6カ月間、長くなると一年以上をそこで過ごします。小児がんの治療としては、子どもたちの体の負担になるため、手術による外科的治療が難しく、大人のがんと同様に抗がん剤を使います。それにより、体内の白血球がみんな死んでしまい、免疫力が低下してしまうので、感染を防ぐために隔離しなければなりません。
今の福祉の状況というのは少し変だと思うのですが、社会の中で介護士による介護を受ける人と受けない人がいるという不平等をなくすための、「完全看護」という考え方が浸透しているため、家族による介護を望んでいる人がいるにもかかわらたず、家族が介護を行うことができなくなってしまいました。
小児がんの病院では、法律的には、子どもたちだけで隔離されることになっています。しかし、お子さんが入院された経験のある方ならご存知かと思いますが、必ずお母さんも一緒に施設に行きます。場合によっては、お父さんが行くこともあります。しかし、その完全看護という思想により、法律的には、お母さんたちはそこにいないことになっています。病室に付き添うために、一度隔離ゾーンに入ると、そこはクリーンルームで、部屋を清潔に保たなければいけないので、簡単に出入りすることはできなくなってしまい、病室に泊まり込むことになります。ただ、法律的には認められていないので、宿泊用に普通のベッドを持ってくることはできず、一枚の薄いカーテンのみで仕切られた、わずか二坪の狭い空間で、子どもの眠るベッドの足下に簡易ベッドを置いて寝泊まりするのです。先生の回診が終わると、ベッドをパッと開いて寝て、次の先生の回診までに起きて片付け、先生を待ちます。この生活を6カ月間続けるのです。
また、病気の子どもたちは自分が死ぬかもしれないことを分かっています。ある時「ぼく、もう今週死んじゃうんだ」と、にこにこしながら話している子どもがいて、その子のお母さんは、その時は横で静かに話を聞いていましたが、その子がその場からいなくなると、離れた場所で大声で泣いている光景を目にしました。そのような、精神的にも体力的にも辛い状態を、6カ月もの長い間耐え続けているうちに、次第にお母さんは心を病んでいき、そして、かなりの家庭が崩壊してしまうそうです。この状態をなんとかしなくてはいけない、と「チャイルド・ケモ・ハウス」というプロジェクトが立ち上げられました。
最初は、小児がんの子どもたちの病院をつくってくださいと依頼されましたが、先ほどお話した状況を目の当たりにして、別の方法を考えることにしました。そこで、今の病院の枠組みでは解決できないので、診療所をつくって、その周りにいろいろなハウスメーカーから住宅を寄付してもらうという案を考えました。しかし、なかなかうまくまとまらず、実際にはそのハウスメーカーのうちのひとつである積水ハウスにお願いすることにしました。また、このプロジェクトを進めるにあたって、募金を呼びかけ、積水ハウス、日本財団、それから、一般の方がたから、合わせて六億円のお金が8年間で集まりました。積水ハウスからは、さらに、部材や技術提供などをしていただきました。そのため、若干いつもの私たちの設計とは雰囲気が違っています。
設計にあたっては、まず、子どもの部屋がひとつひとつ病院に接しているようなかたちを考えました。そうすれば、子どもは外を歩かなくて済むので、すべての部屋をクリーンルーム化できます。しかし、それでは子どもの部屋の数が少なくなってしまうことが懸念されたので、五人の子どもの部屋のクラスターをつくり、その共用部分が病院に接するようにしました。最近関わっているホームレス対策活動でも勉強しましたが、人が集まる時、ふたりだと仲がよいか悪いかは分かりませんが、三人いると必ずそのうちひとりがいじめられてしまいます。それが、五人になると、何とかみんなで助け合う。五というのは、マジックナンバーなのです。
それから、そのクラスターの外側に家をつくれば、現状とまったく異なる病院ができます。子どもの部屋を介して、家族の部屋と、病院がそれぞれ繋がっているのですが、子どもたちの症状に合わせてその繋がり方を変化させます。子どもたちの症状がきつくない時は、病院側と一体の状態にして、清浄度を保った状態で治療します。抗がん剤による化学療法での入院期間6カ月のうち約三分の一は、非常にきつい状態が続くので、完全な隔離状態でなければいけない。その時は、扉を閉じて、家族も子どもの部屋には入らず、窓越しに会うようにします。お母さんだけが子どもの部屋の中に入って付き添う場合にも、それらしい生活ができるような広さが確保されています。そうすることによって、完全な隔離期間というのは、6カ月間のうちの三分の一にまで減らすことができます。つまり、三分の二の期間は、学校でみんなで勉強したりといった、普通の生活ができるということです。家族が離ればなれになることもなく、お父さんも仕事を終えると、外から庭を通って帰ってきて、お母さんをサポートすることができるのです。「チャイルド・ケモ・ハウス」では、現在、19個の共同住宅が病院と一緒になっています。
子どもの部屋には、子どもとお母さんのベッドが並んで置かれています。部屋の窓は入り組んだ路地のような庭の緑に向かって開かれていますが、他の子どもの様子は見えないように配置されています。また、子どものベッドの上には天窓があって、子どもたちはいつでも空を見ることができます。病状がよくない子どもは、大半の時間を天井を見て過ごすそうです。その時に、視線の先に天窓があることで、光が差し込み、天気の移ろいや星空を眺めることができ、つらい闘病生活を耐える子どもの精神状態にも配慮しています。