アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
*次は、私が事務所を始めて最初にやりました作品のひとつで、『代官山集合住居』の第一期です。このころはまだかなり素朴に、近代の持っているイメージとかポエジーみたいなものをダイレクトに出そうということに興味がありました。全体に自の空間で、中のホールはちょっと段差のある空間ですが、土浦先生の自邸とか客船のデッキがひとつの原風景としてあって、それがひとりの建築家の実際の空間構成の中に出てきたのでしょう。われわれは、絶えずいろいろな経験とか印象をストックしていまして、やがて何かの拍子にそれが出てくるんですね。ですから、一生懸命ストックしようとしなくても、自然に自分で選択して意識の中に堆積されたものをやがて出していくということが、きわめて多いと思います。
ですから、よく建築家が「自分は何か原点から建築の最後までを一直線につくった」という解説をいたしますが、余りあてにならない場合が多いですね。作家の設計プロセスというのは、皆さんも同じと思いますが、紆余曲折があります。コルビュジエは有名な『サヴォイ邸』を1928年に完成しています。実はきのう大学で富永譲さんが『サヴォイ邸』の設計のブロセスを分析してくれたのですが、最初は非常にシンメトリー、つまり古典的なプラン構成だったのですね。それがお金がなくて規模が小さくなっていく中で、少しずつずれが生じ、やがてある種の曖昧性を持った骨格、空間構成に変貌していきました。コルビュジエのような偉大な建築家であっても、必ずしも直線的にある解決に到達するのではなくて、その中で明快なものから、曖昧性のあるものに変わっていくことはきわめて普通であったことがよくわかります。