アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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槇 文彦 - 建築空間と物質性について
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東西アスファルト事業協同組合講演会

建築空間と物質性について

槇 文彦FUMIHIKO MAKI


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『SPIRAL』
SPIRAL
SPIRAL
SPIRAL/アトリウム
SPIRAL/アトリウム

*次は『SPIRAL』です。SPIRALの建物は、現代の東京の最もファッショナブルだといわれる青山通りに面して建てられています。かたちは建築のセットバックの規制を受け、きわめて限定されているのですが、こんな中でどんなものをつくっていこうかということになったわけです。

当初施主であるワコールの方としましては、「何か変わったものをつくってくれ」というだけしかなかったのです。変わったものといってもどんなふうに変わっていいのかよくわからなかったのですが、近代建築におけるロシア構成主義のチェルニコフのドローイングに現われる「構成」と、それからわれわれにとって比較的類似しているといいますか、そういう材料を使いながら、なおかつ全体として何か−−決して新しいと思えないのですが、今日の状況の中である種の新鮮なものをつくっていこうと思ったわけで、また同時に入りやすい建物をつくりたいという感じも持っていました。

SPIRALでは、藤沢の体育館のステンレスと違ってアルミが主役です。

正面ファサードはアルミを中心にした物質系で構成されています。厚さ5ミリのアルミパネル、さまざまな断面を持つサッシュ群、フルーティングを持った円弧上のアルミパネルで包まれた円柱。8〜9階のフリーフォームと円錐のヴォリュームはアルミの溶射仕上げになっています。アルミパネルは10ミリの目地を持つオープンジョイントで連結され、コーキングされていないので、近づいてみると金属の境界面が緊張感を持つ線となって現われています。工業製品であるアルミパネルの表出するこの線のエネルギーを大事にしたいと考えたわけです。

さらに全体構成は、いくつかの近代絵画、あるいは建築に現われた要素のコラージュでつくられております。SPIRALという名前についてですが、ひとつは中に螺旋状のランプをもったアトリウムとしてもあるのですが、もうひとつはファサードの構成の中に存在する螺旋状に上昇するひとつの動きですね。その動きは最後は避雷針になって終わっています。ひとつひとつの要素をできるだけ全体の建築の構成の中に組み入れていこうという考え方を、ここでは徹底的に追求しています。エスプラナードのサッシュの間隔も、へボナチ比でだんだん増えている。というのはここでも動きの感じを増幅しようとするという意図があります。

それからこのファサードでは白い丸柱も断片化されて見え隠れします。われわれは最近、できるだけ構造体をそのまま率直に出さないし、また構造体によってファサードが規定されるのを避けるように努めています。そのために構造体の前にもうひとつ被覆を自由につくりたい。かつてコルビュジエが「自由な空間」といったときに、例のキャンティレバーの先は違うんだ、あれは被膜をつくっていく部分だといったのを覚えていらっしゃるかもしれませんが、そういうふうにどっかで建築の表層における表現の自由を確保し、かつ表現したいとすることが大きなモティーフになっています。

この建物の設計では、先ほどもいいましたが、まず状況を設定してそれからつくっていくという攻め方をしています。たとえば映画監督というのは一般的にシナリオに興味を持っているものなのですが、私はアイゼンシュタインなんかの映画を見ていましても、彼はストーリーにはそんなに興味がないんじゃないか。むしろ彼としては最も印象に残るシーンをどこら辺につくるかということに最大の興味を持っていたと思うんですね。偉大な映画というのは、ストーリーを覚えているのではなくてシーンを覚えているのです。シーンも、その映画の中でひとつでもいいし、せいぜい三つとか四つあるに過ぎません。それが偉大な映画のメッセージなんだと思うんですね。とすると、そのシーンをつくるために、むしろ逆に後のストーリーをつくっていくんじゃないか。どうも芸術家の気持ちの中にはそういうところが非常にあるんじゃないかと思います。

建築も、やはりちょっと似たところがあります。ある場所とか空間をぜひつくりたい。ぜひこういうものをつくりたいと最初に思うわけですね。たとえ対象がオフィスであっても商業空間でも公共空間でも何でもいいです。もちろんプログラムが煮詰まってオプティマームにそれらを満足し、使われやすいものをつくっていくんですが、使われやすいということは、形態や空間に無限のバリエーションがあるために建築の決定要因にならないんですね。必要条件であるけれども十分条件でない。建築は、映画と同じように自分なりに形態の決定要因をどうして探し出すかというところが主要であり、したがってシーンの演出が非常に重要になってきます。

SPIRAL/アトリウムの天井
SPIRAL/アトリウムの天井
SPIRAL/屋上ガーデン
SPIRAL/屋上ガーデン

一階の後方にあり高さ17メートルの半円筒のアトリウムも、そうした高い演出性を意図した場所なんですが、初めからこういうものをつくりたいということがありました。これはアトリウムの天井です。ここにはいろいろな機能があって、下でショーをやったりパフォーマンスをやるときの照明とかいろいろと使われるのですが、こういうようなものもアトリウムの全構成の要素の中にあって、しかもここではきわめてインダストリアルに要素が表現されています。これは円形の壁の下部のディテールですが、シュベックというユーゴスラビアの石を、バーナー仕上げの部分とポリッシュした部分を組み合わせ、スケール感を出しています。普通の石を眠り目地でもってつなぐというのは、私は非常に安易な石の使い方だと思います。ディメンションのヒエラルキーがないんですね。ですから、ここはやはりいくつかの違った寸法を出しています。上部の壁はクロス貼りですが、これも、われわれはサンプルを四つぐらいつくって、いろいろなピッチのクロスを織らせまして、このシュベックの石と目の前で対比しながら、最終的に選びました。先ほども皮膚性というお話をしたのですが、ここら辺なんかにも材質感を重要視しています。

ここにはいろいろな外国の建築家が見にくるのですが、彼らが非常に興味を示すことのひとつにディーテールがつくる感性の世界があります。自分でいうのもおかしいんですけれども、いまよその国では、工業の水準とクラフトマンシップとはなかなか両立しにくいということがあるのでしょう。こういうようなディテールの持っている表現はつくられる可能性のあるうちはぜひ、つくり続けていきたいなと思っています。

三階にはちょっとアール・デコ風のホワイエがあります。劇場空間の前奏曲になるのです。ここで天井の丸い形はどうしてそうしたかというと、実はここに二本の独立柱が、この空間の中で見えてくるのですが、この二本の独立柱にある存在性を強調するために−−よくマッシュルームの構造がありますね、ここは天井高がないので、そのマッシュルームをプレスした形で、しかも装飾的に取り扱っているのです。

劇場に入りますと、今度はわりと禁欲的な展示空間、パフォーマンス、舞台を含めた空間があります。前奏の部分がわりときらびやかなものですから、もう少し荘重なものに変わっていくという、シナリオが設定されているわけです。

SPIRALは、正面から奥に20メートル行きますと20メートルしか高さが建てられない。ここの屋上、これはわれわれも非常に興味を持っている部分なんですが、ここにレストランの屋上ガーデンをつくりました。いろいろな構成原理を持っていますが、へボナチ比で切られている黒い線が実際以上の奥行を感じさせます。それから、ピラミッドとか半球とかいう基本的な幾何学形を設置し、樹木も、かなり人工的な形態に刈り込んであります。

なぜこういうことをしたかというと、非常な喧騒の都会の中で屋上に行ったときに、よく皆さんも経験されると思いますが、一瞬静まり返った空間があるんですね。つまり都会の音も聞こえなくなって、人気もないわけですね。非常に無機的な都市の風景です。

その中でも、きわめてシュールリアリスティックなシーンをここへつくろうというのが、これのデザインの最大の眼目でした。つまり、デ・キリコの『イタリア広場の引っ越し』という一連の作品の持つ、一見時間が制止したような雰囲気を持っている空間をつくりたいということが、この場合の決定的なシナリオとなったわけです。

SPIRAL 1985
SPIRAL 1985
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