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東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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槇 文彦 - 建築空間と物質性について
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東西アスファルト事業協同組合講演会

建築空間と物質性について

槇 文彦FUMIHIKO MAKI


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『藤沢市秋葉台文化体育館』

この後、いくつかの作品を少し詳しく見ていきたいと思います。

*『藤沢市秋葉台文化体育館』をやりましたときのスケッチです。先ほどの大阪の体育館のときに一方向に湾曲する空間をつくったのですが、できてみますと、迫力のある空間は二方向に湾曲した空間体ではないかということを感じたことが心の底に残っていて、まず空間体に対してひとつのイメージが最初にありました。屋根を覆う段階になってステンレスという発想が出てきました。それにはいろいろな理由があるのですが、ひとつは先ほどいいました現代における感性としての軽さ、飛翔性を出したいということ、つまり光るということ、一方藤沢は海に近く塩害が多いので、それに対して強い材料であること、それから大架構になりますとルーフィングの重量が非常に重要でして、軽い方がいいですね。薄くて強いものというと、いちばんいいのはチタンなんです。その次がステンレスですね。われわれはチタンも使ってみたいのですが、ステンレスに比べまして平方米単価が三倍から五倍ぐらい違うので、いまもって使えない状態なんです。ただ感光性はステンレスの方がはるかにいいけれども、材料としての加工の容易性はチタンの方がいいようです。

私が最近追っかけているテーマのひとつにふくらんだ感じの空間というのがあります。藤沢の体育館の大空間では、昔の寺院の屋根が持つ象徴性みたいなものを空間に演出しているつもりですし、それから現在設計中の『東京都体育館』も、もっと規模の大きいかたちでステンレスの屋根、それから『幕張メッセ』でもステンレスの湾曲した屋根空間に、時代のひとつの象徴性を求めていこうとしております。

ステンレスの屋根がつくるさまざまなシルエットがつくり出す感性は、つくっている方も当初期待していたのとまた違った、あるいはそれ以上に印象的でした。やはり形態を越えて材料の持っている魅力が非常にあるんですね。形態は当然おもしろくなければいけないのですが、一方金属という材料は、アングルを変えていくと非常にシャープに反射の差が出てくる。たとえ微妙であっても反射率が高いですからわずかの操作によってもめり張りのある金属特有の魅力が出てくるという特性を持っているわけです。それはぜひ使われるときにやられるといい。絶対にほかの材料にはないシャープさが出てきます。

しかし、そのためには金属のシャープさをできるだけ最大に出すようなディテール、納まりが大事だという結果になるわけです。藤沢で使用したステンレスは幅40センチ厚0.4ミリの板なんですね。これをそのままクレーンで持ち上げるとベコベコになってしまうのです。で、どういうふうにしたかといいますと、たとえば小アリーナの屋根ではあらかじめジグをつくっておきまして、その上に数枚のステンレスを乗せます。その上にもうひとつ同じジグを重ねて吊り上げます。小アリーナの屋根ではトビ職の人たちが待っていて、ある間隔でそれを置いていきます。ステンレスは横にずらされて、その間をトランスを背負った自動溶接機によって溶接されていきます。自動溶接機は平面ですと自分で走ってくれるのですが、重力がありますから、途中でトビが並んで立っていまして彼らが手でガイドしながら溶接していきました。

建物はおととしの10月にできたのですが三月か四月に終わるはずの最後の溶接が終わったのが、建物ができる二週間前だったというように、工事は当初予期したより難しいものでした。

たまたまこの年は雪が多くて、雪が降ってもだめだし、それから雨が降ってもだめ、風が吹いてもだめ、それから非常に日差しの強い夏は二人ほど日射病になったりしましたので、朝にやって夕方にやってという、難工事の連続だったわけです。

藤沢市秋葉台文化体育館
藤沢市秋葉台文化体育館
藤沢市秋葉台文化体育館
藤沢市秋葉台文化体育館

大アリーナの屋根は直線面をずらしていって曲面の屋根をつくっています。そのために屋根面にシャープな線が出てきて、先ほどいっためり張りがつきスケール感が出てきました。

建築の中でよくスケールがあるとかないとかいうことをいいますね。ある学者が発表している説が私はいちばんおもしろいと思うんですが……。ある建築の面があるとして、その面にいろいろな寸法が存在している。その中に人間の寸法、大体1.5メートルから2メートルくらいのが真ん中あたりに含まれている。そういうような寸法がある面で構成される建築はスケール感があるというんですね。

たとえば超高層の倉庫などで、全部めくらの壁の建物としますと、幅20メートルとか高さ50メートルという寸法がひとつあるわけですね。その次の寸法は、それをつくっている材料の同じ繰り返しの寸法で、その間がないんですよね。ところが、スケール感のある建物は50メートルもあれば20メートルもある。10メートルもあるし5メートルもある、2メートルもあります。1メートルもあるし30センチもある、5センチもあるし2センチもあります。そういうような、ざまざまな寸法がヒエラルキーを持って構成されているような面が、実はいちばん建物にスケール感を与えるのです。

昔の建物は装飾がわりあいとスケール感を与える役目を果たしていますね。装飾の果たしている役目の中で、スケール感を与えている役割は非常に大きいのです。

メインアリーナのスカイライトを三角形にしたというのは、ここで一遍直線性を見せることが、ステンレスという物質の持っているエネルギーを高め、さらにスケール感を与えることができるのではないかという意図に基づいています。

それから40センチ間隔で現われる溶接の継目があり、さらに細かく見ると、ステンレスには幅の方向に無数にひだが入っています。それが屋根面に皮膚性を与えています。手を見ていますと指紋があって、指紋がなければ、われわれ人間の手はゴムの手袋と同じになってしまうのですね。やはり人間の手に生命力があって、ゴム手袋にはないというのは、皮膚に細かいひだがあるからだと思います。

恐らく、村野先生が皮膚性の非常に優れた建築をつくられた中で、紙とか布を好まれた理由には、紙や布の近くに寄ってみますと、微妙な繊維の目がありますね、あの繊維の目がこしらえている模様にあったのではないでしょうか。金属もアルミなどですと、やはりアルミの目地なんかがその存在感を強める上で非常に重要な役割を果たしてくれるし、ステンレスもそうなんですね。

それから、大アリーナの屋根面の端部は下から見るとちょうどトンポの羽根みたいにステンレスのエッジを透かしています。ステンレス面が最後にボコッとしていると迫力がないので、エッジを薄く細く見せることによって、ステンレスの存在感を出しています。

ですから、煉瓦なんかを使うときには、非常にマッシブに表現することによって建築としての存在感が出るように、逆に金属で仕上げるときはそのエッジをシャープにさせた方が建築の存在感が強く出ます。

ここら辺のことを、藤沢の体育館をやるときにかなり勉強をしました。これから後の建築には、こういう基本的な原理を繰り返しやって確かめていきたいと思っています。確かに建築は建築家の意思の表示ではあるのですが、そのためには、繰り返しになりますが、やはり材料の持っている特性を生かしていきたいものです。これは知識の問題であり、経験が教えてくれるところだと思います。

私は、建築デザインの当初ある状況を設定して、この空間の雰囲気はどうしようか、その雰囲気を満足させるための材料系はどれにしようかという攻め方と、一方においてこういう材料を使いたいので、したがって空間はこんな雰囲気になるんじゃないか、だからほかのこともそれに従って決めようという、シナリオとしては、大体このAかBかどちらかの攻め方をします。

ここでは、コンクリートと金属が建物の主なる構成要素で、そこから全体が展開していくということであったと思います。

SPIRAL 1985
SPIRAL 1985
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