アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
道路拡張のための移転を機に、県内ではじめてホスピスを併設することになりました。全55床からなる病院ですが、そのうち20床が末期の癌患者のための緩和ケア病床です。病院も機能だけで考えてしまうと硬直してしまいます。日進月歩で進む医療技術や、診療報酬基準、必要とされるケアの質など、内容が変わっていくのに、現在の状態にジャストフィットしたものを建ててしまうと、今後の変化に対応できなくなってしまいます。そこで私たちは、将来の変容にフレキシブルな対応できるような病院を考えました。壁柱部分だけがコンクリートで、それ以外は非耐力壁の間仕切り壁でできています。エレベータや階段室のコアなどいくつかの耐震要素がありますが、それ以外は全部取り払うこともできます。病院としてこの先50年、使えることを目的としています。
末期の癌患者のための緩和ケアをするホスピスにおいて、ナースステーションと病室との関係をどうするかということはとても重要な問題です。普通は病室の前の廊下の見通しをよくするために、廊下を一直線なりT型にして、真ん中やコーナーにナースステーションを置くことを考えます。しかし、実際に患者さんの立場に立って研究すると、見えているけど遠いところに」あるナースステーションよりも、見えなくとも近くにあるナースステーションのはうが安心感があるし、自分の病室にこなくとも近くでナースが作業している状態を感じられるほうが心強いという結果が出ました。
ロの字型の平面は必ず死角ができるので致命的なように考えられがちですが、真ん中にナースステーションを置くと、むしろ、どこの部屋からも至近距離にある状態がつくり出せます。そこをすべてナースステーションにしてしまうと面積が広すぎるのですが、リネン室などの個室もぴったりくっつけないで隙間を開けて組み込み、真ん中のナースステーションからは四方八方に出ていけるような平面にしました。私はこれを「ルーズなナースステーション」といっています。どの病室の患者さんからも、ナースステーションがすぐそこにあるように感じると言ってもらえました。不安から寝つけない患者さんがいたときに、ナースステーションにベッドごと移動したところ、騒々しいはずなのに朝まで安心して休まれたという話も聞いています。
また、4〜6人部屋はプライバシーもなく居心地が悪いとよくいわれます。一般には、窓がないからだといわれていますが、私は、ベッドのまわりのカーテンを開けると向こう側の人と対面してしまうことに問題があるのではないかと考えています。それをなくすために、どのベッドも脚先を窓側に向ける配置を考案し、実現しました。また、ベッドふたつをひと組みとして雁行配置することで、緊急の医療機具置き場や多くの見舞客のためのたまりのスペースをつくっています。でこぼこが廊下側にも出てきますが、水回りを設置して調節しています。みんなが窓に脚を向けて日向ぼっこしているようなので「サンデッキ型多床室」と名づけました。窓辺に、連続するカウンターテーブルとイスを置いていて、食事や読書のときにも使えるようになっています。各ベッドの真正面に窓がくるようにしてあるので、窓の開け閉めはひとりひとりの自由になります。
病院を設計したことがなかった私に設計を依頼された理由を院長に尋ねると、「アンパンマンミュージアム」の空間を見たからだとおしゃいました。あまり事例のないホスピスの設計でしたから、今までの病院とはまったく違う考え方で一から一緒に考えてくれる人を望まれていたようです。四年の歳月をかけてつくった病院です。