アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
これまでのことを前提にして私の作品についてお話をしていこうと思います。「東雲キャナルコートCODAN1街区」をつくった時は、現在ほど明確になっていたわけではありませんが、かなり「地域社会圏」のようなことを考えていました。当時はSOHO的と説明していましたが、住宅を「一住宅一家族」の閉鎖的な住宅としてではなく、できるだけ外に対して聞いていくことをテーマにしました。
外から見ると穴がたくさん開いているように見える、二層吹き抜けの外部空間は「コモンテラス」です。この「コモンテラス」をガラス張りの「f-ルーム」を持つ住戸ユニットが取り囲んでいます。「f-ルーム」はオフィスやショールーム、工房などの多様な利用に対応できるものです。住戸の典型的なユニット(ベーシックユニット)の床面積は55平方メートルです。玄関は中廊下に面していて、ガラス張りになっています。そして玄関の反対側の採光面に風呂場とキッチンを配置しました。風呂場とキッチンは、透明なガラスで室内と隔てられていて、採光はここからなされます。 室内のスクリーンは可動で収納もできるので、使い方のさまざまなバリエーションが生まれます。中廊下に面している玄関をオフィスとして使うことも、パーティションを完全に取り去って住戸全体をオフィスにすることも可能です。水回りをすべて窓際に配置したので、玄関周りの空間がかなり大きくなり、高いフレキシブル性を実現しました。従来の住宅とはかなり異なったつくり方になったと思います。
玄関が透明なので、中廊下がとても明るくなります。実際に住んでいる方たちは、玄関に自分の蔵書や作品をディスプレイしたり、クリスマスツリーをみんなで飾ったりするなど、窓側を飾るように住んでおられます。従来の鉄の扉でできた玄関では絶対に起きないことが起きていて、とてもおもしろいと思いました。ガラス張りにすることは、建築としては大したことのない操作です。たったこれだけのことなのに、劇的に住み方が変わるのです。
ところがこうした建築の考え方に法律の方がついてきません。都市再生機構は住宅を供給する組織なので、「オフィスをつくってはいけない」と言われました。オフィスには消費税がかかってくるのです。「どこまでが住宅でどこまでがオフィスなのか線を引け」と言われたので、線だけが引いであったりします。法律の方が、「一住宅一家族」を前提にしてできているので、それと違ったかたちの住宅を供給しようとすると難しいことがたくさん起きるのです。
敷地の中心をS字アベニューが通っています。その周りにはコンビニ、保育園、高齢者施設、レストランといったさまざまなファシリティがあります。都市再生機構が住人に対して行ったアンケートに、「S字アベニューにやってきた時、自分の家に帰ってきた感じがする」という回答がありました。これはすごく嬉しかった。たいていの場合、マンションでは自分の部屋に入って鍵をガチャンと閉めなければ、帰ってきた感じはしないでしょう。ここではそれと違うことが少しずつ起きています。
それはやはり建築のつくり方によって起こるのだと思います。建築は、社会が示す使われ方に沿ってつくられると、私たちは長い間思ってきました。しかしそうではなく、建築が変われば住んでいる人たちの意識や社会は相当に変化するのではないでしょうか。1920年代につくられた「一住宅一家族」の住宅モデルが、私たちの住まうことに対する意識をそれ以前からすっかり変えてしまったように、もし現代の私たちが別の住宅モデルを提案できれば、「一住宅一家族」の不便さを克服する住み方が生まれてくるのではないかと思います。