アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

マークアップリンク
トップ
私の建築手法
山本理顕 - 「地域社会圏」という考え方
東雲キャナルコートCODAN1街区
2022
2021
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986

2009 東西アスファルト事業協同組合講演会

「地域社会圏」という考え方

山本理顕RIKEN YAMAMOTO


«前のページへ最初のページへ次のページへ»
東雲キャナルコートCODAN1街区
東側より1街区を見る。左に南棟、正面手前に北棟、奥に閤棟。
東側より1街区を見る。左に南棟、正面手前に北棟、奥に閤棟。

1街区南棟ファザード。「コモンテラス」の廻りに配された「f-ルーム」。
1街区南棟ファザード。「コモンテラス」の廻りに配された「f-ルーム」。

中廊下に面したガラス張りの玄関。
中廊下に面したガラス張りの玄関。

これまでのことを前提にして私の作品についてお話をしていこうと思います。「東雲キャナルコートCODAN1街区」をつくった時は、現在ほど明確になっていたわけではありませんが、かなり「地域社会圏」のようなことを考えていました。当時はSOHO的と説明していましたが、住宅を「一住宅一家族」の閉鎖的な住宅としてではなく、できるだけ外に対して聞いていくことをテーマにしました。

外から見ると穴がたくさん開いているように見える、二層吹き抜けの外部空間は「コモンテラス」です。この「コモンテラス」をガラス張りの「f-ルーム」を持つ住戸ユニットが取り囲んでいます。「f-ルーム」はオフィスやショールーム、工房などの多様な利用に対応できるものです。住戸の典型的なユニット(ベーシックユニット)の床面積は55平方メートルです。玄関は中廊下に面していて、ガラス張りになっています。そして玄関の反対側の採光面に風呂場とキッチンを配置しました。風呂場とキッチンは、透明なガラスで室内と隔てられていて、採光はここからなされます。 室内のスクリーンは可動で収納もできるので、使い方のさまざまなバリエーションが生まれます。中廊下に面している玄関をオフィスとして使うことも、パーティションを完全に取り去って住戸全体をオフィスにすることも可能です。水回りをすべて窓際に配置したので、玄関周りの空間がかなり大きくなり、高いフレキシブル性を実現しました。従来の住宅とはかなり異なったつくり方になったと思います。

配置 縮尺1/8,000
配置 縮尺1/8,000

1街区2階平面
1街区2階平面

1街区1階平面 縮尺1/2,000
1街区1階平面 縮尺1/2,000

南棟平面 縮尺1/600 コモンテラスをf-ルームが囲む
南棟平面 縮尺1/600 コモンテラスをf-ルームが囲む

1街区南棟、1街区北棟を通る断面 縮尺1/800
1街区南棟、1街区北棟を通る断面 縮尺1/800

ベーシックユニット内観。可動のスクリーンを用いて、廊下側に聞いたパブリックな空間とプライベートな空間を自由に分節できる。
ベーシックユニット内観。可動のスクリーンを用いて、廊下側に聞いたパブリックな空間とプライベートな空間を自由に分節できる。

玄関が透明なので、中廊下がとても明るくなります。実際に住んでいる方たちは、玄関に自分の蔵書や作品をディスプレイしたり、クリスマスツリーをみんなで飾ったりするなど、窓側を飾るように住んでおられます。従来の鉄の扉でできた玄関では絶対に起きないことが起きていて、とてもおもしろいと思いました。ガラス張りにすることは、建築としては大したことのない操作です。たったこれだけのことなのに、劇的に住み方が変わるのです。

ところがこうした建築の考え方に法律の方がついてきません。都市再生機構は住宅を供給する組織なので、「オフィスをつくってはいけない」と言われました。オフィスには消費税がかかってくるのです。「どこまでが住宅でどこまでがオフィスなのか線を引け」と言われたので、線だけが引いであったりします。法律の方が、「一住宅一家族」を前提にしてできているので、それと違ったかたちの住宅を供給しようとすると難しいことがたくさん起きるのです。

敷地の中心をS字アベニューが通っています。その周りにはコンビニ、保育園、高齢者施設、レストランといったさまざまなファシリティがあります。都市再生機構が住人に対して行ったアンケートに、「S字アベニューにやってきた時、自分の家に帰ってきた感じがする」という回答がありました。これはすごく嬉しかった。たいていの場合、マンションでは自分の部屋に入って鍵をガチャンと閉めなければ、帰ってきた感じはしないでしょう。ここではそれと違うことが少しずつ起きています。

それはやはり建築のつくり方によって起こるのだと思います。建築は、社会が示す使われ方に沿ってつくられると、私たちは長い間思ってきました。しかしそうではなく、建築が変われば住んでいる人たちの意識や社会は相当に変化するのではないでしょうか。1920年代につくられた「一住宅一家族」の住宅モデルが、私たちの住まうことに対する意識をそれ以前からすっかり変えてしまったように、もし現代の私たちが別の住宅モデルを提案できれば、「一住宅一家族」の不便さを克服する住み方が生まれてくるのではないかと思います。


f-ルームタイプ平面 総尺1/200
f-ルームタイプ平面 総尺1/200

ベーシックユニット平面 縮尺1/200
ベーシックユニット平面 縮尺1/200
«前のページへ最初のページへ次のページへ»