アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
次は「アオーレ長岡(2012年)」で、これは長岡市役所の建て替えのプロジェクトです。以前の市役所は、長岡駅から車で20分くらいの街の外れに建つ、コンクリートでできた典型的な庁舎でした。大きな公共建築は、「箱物」と呼ばれます。20世紀の人びとは、大きな建物を建てるために大きな敷地を探し、街の外へ外へと出ていきました。そこにコンクリートの大きな箱をつくり、周囲には広い駐車場がさびしく広がっていました。「箱物」ってそういうものです。
今回は、「箱物」とは逆の建物をつくることをめざしました。このアイデアを言い出したのは、長岡市長の森民夫さんで、街の中心部に「箱物」とは逆の庁舎をつくろうと思い立ったのです。
駅の近くに選定した敷地は、市庁舎を建てるには少し小さい場所なので、その敷地で納まらない庁舎機能は、わざわざ別の場所を借りて補っています。それが逆によいのだと市長さんは言っています。市庁舎が周辺の物件を借りて入居することで、その物件の持ち主には賃料が入るし、市役所が分割していることで、今まで以上に市役所の職員は街をうろうろすることが多くなり、きっと夜もこの辺りに飲みにいくだろうから、それによって街が活性化するかもしれない。ひとつの敷地に納まっていない方がよいのだ、というわけです。
コンペティションに私たちが提出した案は、外観のない建築をつくるというものでした。中心に大きな中庭を設け、ボリュームをすべて外周部に寄せました。槙文彦さんがこのコンペティションの審査委員長だったのですが、建物が完成し、8月に開催された長岡花火という地元の花火大会の日にこの建物を見てくださり、その時、「靴下を裏返したような建物」だという言葉をいただきました。普通の建築では、私たちには靴下の表側しか見せていません。それをぐるりと裏返したような建物だと表現した槙さんは、さすが、素晴らしい言語感覚を持っている(笑)。アリーナと土間は市民のための中庭空間として一体となっていて、そこが槙さんのいうところの、靴下の裏返された部分になります。
市役所という機能上、建物は、やはりどうしてもある程度の大きさのボリュームとなってしまうのですが、ここでもなんとか小さく、柔らかい建築にしようと考え、材料には地元の越後スギを使用しました。スギを使う時も、使い方が難しい。木自身の幅は6〜7センチの小さいものですが、単純にぺたっと張ってしまうと、木の色をしたコンクリートみたいになってしまいます。
木を使う際も、どうすれば木の小ささをちゃんと感じられる建築になるかを考えなければなりません。そこで私たちは、千鳥格子(チェッカーパターン)を採用しました。「Chidori」で用いた木組みも千鳥で、この千鳥格子と同じ名前が用いられていますが、これは偶然ではなく、「千鳥」の語源に関係しているのだと思います。たくさんの小さな鳥がぱらぱらぱらと飛んでいるような離散的状態を、「千鳥」と呼ぶのです。その千鳥格子を用いて、小さな鳥がひとつひとつ鳥として認識されるようなばらつかせたディテールを考えました。ぱらつかせる、というのは口で言うのは簡単ですが、要するに全部違うパターンでできているということで、図面にするのは非常に大変でした。皮付きのスギの木を使い、寸法をばらつかせ、ピッチを変えて、全体のばらつき感が出るように工夫しました。
中庭で使用する小さな屋台もデザインし、市庁舎全体を小さくて柔らかいものに感じられるように頑張りました。その結果、人がたくさん集まるようになりました。そのうちに常連ができ、中学生や高校生は宿題をしにここへやってきますし、暇を持て余している高齢者は、お茶を飲みにきてずっと滞在している。これを見た市役所の人は、「隈さん、予想外にうまくいきましたね」と言ってくれました。この「予想外」という言葉は気に入りませんが(笑)、本当にたくさんの住民に好かれる建物になりました。
ここに入居するお店の選択もきっと重要で、ここにはコンビニとハンバーガーショップだけが入っています。そういった小さなお店も、あまり入れすぎないのがこつです。レストランが入ると繁盛するだろうと予想できるのですが、そうするとこの建物の中だけですべてが完結してしまい、人が街に溢れていかないのでよくありません。街の中に人が溢れていくようにするには、入っているプログラムも小さくなくてはいけないのです。
他にもいろいろな「小さな」工夫を施しています。屋上には自動制御の太陽光パネルを設置していますし、1階の総合受付カウンターの茶色い部分はすべて、栃尾紬という地元の布を使っています。とても柔らかくて、実際に、旗のようにパタパタ動きます。