アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
次は原美術館の庭に建てた「KXK(2005年)」という温度で形の変わるパピリオンで、形状記憶合金の針金でつくりました。形状記情合金とは、Yシャツの襟などに使われていますが、温度で形が変化する金属です。これは、慶應大学で教えていた頃に、構造の北川良和先生の研究室で、形状記憶合金を鉄骨のジョイントに使うという研究をして、そこで形状記憶合金が建築にも使えると、思い付いたのです。地震でジョイントが壊れたとしても、形状記憶合金を使うと、暖めてそのジョイント部を元に戻すことができる、というのが北川研究室の研究で、そこからこの「KXK」の仕組みを思い付きました。
素材の形状記壊合金は、直径が30センチくらい、太さが2ミリほどのリングですから、そのままだとふにゃふにゃです。温度が変わると、生物的にゆっくりと形が変わっていくのですね。これらをたくさん繋いで、球形のパピリオンをつくりました。つくり方とし発泡スチロールで球をつくり、それを型としてその上に針金を張って、全体をつくっていきました。立川基地の隣にある飛行機関連の仕事をしている小さな町工場で制作しました。この針金でできた球の上に、形の変化に追従できるようなやわらかなエパシートというメッシュをかぶせ、完成です。温度設定は、冷えると形が変わるようにしたので、少し寒い日に訪れると、垂れてくるようにゆっくりと形が変化してくるのが見られます。
先ほどもお話しましたが、小さい「粒」でできているというのが、生物のおもしろいところです。メタボリズムとも少し異なる考え方です。メタボリズムは新陳代謝するということですよね。メタボリズムの時代は、私もちょうど建築に興味を持ち始めた頃で、テレビで黒川紀章さんが、新陳代謝しないから都市はだめになるのだ、と解説されていたのを見て、まだ小学生ながら、すごいおもしろいことを言う人がいるなと感じたのを覚えています。しかし、メタボリズムの思想でつくられたものは、有名なものに「中銀カプセルタワー(1972年)」がありますが、新陳代謝していく単位がカプセルサイズなので、大きすぎて新陳代謝できず、実際にはカプセルは一度も交換されていません。福岡伸一さんという生物学者も、メタボリズムの最大の間違いは、大きさを間違えたことだと言っています。「中銀カプセルタワー」のカプセルを実際に交換するとなると、大型クレーンを持ってきて、吊り上げて…とかなり手間がかかってしまいます。私が考えている小さな柔らかい建築とは、もしかしたら、メ夕ボリズムの「粒」がもっと小さくなったものなのではないかと思います。生物で言う「粒」は、基本的に細胞となります。細胞という「粒」でできているので、知らないうちに新陳代謝できている。これまでのメタボリズムは、簡単に言うと臓器移植みたいなものなので、どうしても大ごとになってしまう。しかし、「粒」が細胞単位だと、知らないうちにどんどん新陳代謝して、ある期間で体の細胞すべてが完全に新しい細胞に取り替えられるのです。何ヶ月前のあなたはもうここにいない、というのは養老孟司先生がよくおっしゃる冗談ですが、実は、「粒」が小さいとそれが可能だということに、自分はトライしているのです。