アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
今までご紹介してきた作品は、小さい、柔らかいと言っても、建築全体のボリュームは大きいものばかりでした。ここからは、本当に小さな建築、全体のボリュームも小さい建築をご紹介します。こういうものに関わっていると、自分自身も楽しく、一緒にやっている学生やエンジニアも、楽しんでやってくれて、非常にやりがいがいがあります。
ひとつ目は、フランクフルトでつくった「Tee haus(2008年)」です。フランクフルトのライン川沿いに美術館がいくつかあり、その中にリチャード・マイヤーが設計した「フランクフルト工芸博物館(1985年)」があります。同じ敷地には古い邸宅が残っていて、この博物館は、その邸宅と同じ大きさの小さな建築を3つつくり、繋げたような構成となっています。まずマイヤーの博物館自身が、小ささをめざしてつくられたと言えます。また、その博物館の庭園には、少し盛り上がった丘のような築山があり、これはフランクフルトの川沿いの住宅の庭によくある仕掛けで、その少し高いところから川を眺めながら食べたり飲んだりしていたようなのですが、その築山の上に、茶室をつくるというのが今回の依頼内容でした。
依頼の際に、「隈さん、これは茶室なのですが、木や竹、土といった素材は使わないでください」というような変なことを言われました。そういった柔らかい素材を使うと、ドイツではすぐに壊されてしまうので、もう少し強い材料でつくってほしいということだったのです。私は、これに対してすごく反発しました。なぜコンクリートや鉄で茶室をつくらなくてはいけないのか、私のつくっている、めざしている建築とはまったく異なるものを要求されるなんて頼む先が違うんじゃないかと思い、逆に思い切って柔らかい素材を用いて、使う時にだけ膨らます茶室にしたらどうですかと提案しました。いつもは倉庫に入れて収納しておくため、空気を抜いてたたむと本当に小さくなります。それを、15分で膨らまして茶室にするのです。何回も膨らませたり縮めたりするため、材料の選択が非常に大事になります。膜材というと東京ドームの天井に使われているテフロンコートのものなどを思い浮かべますが、ああいった膜材には、ガラス繊維が入っているため、何度も膨らませたり縮ませたりすると、しわが残ってしまいます。今回使用した膜は、ガラス繊維が入っていないテナラという、ゴアテックスの会社がつくっている非常に柔らかい膜材です。二重膜とし、膜同士を紐状の構造体で繋いでいます。それによって、ゴルフボールのような見た目となっていますが、膜同士を繋ぐジョイントによって、全体に粒っぽさが与えられ、スケールが確認できる「小さな建築」になっています。